映画「イミテーション・ゲーム」アラン・チューリングについて


画像は公式サイトhttp://imitationgame.gaga.ne.jp/より引用

目次

エニグマ解読とチューリング

アラン・チューリング(ネタバレなしで)

チューリングという言葉を聞いた事あるだろうか。数学やコンピューターに関心がないとなかなか出会わない名前だと思う。
チューリングマシンや万能チューリングマシンといったコンピューターに関わる論理学者としての印象が強いように思う。

この映画はそんなアラン・チューリングの人生を軸に、ドイツの暗号「エニグマ」の解読、それに関わる人々や戦争を、実に人間味あふれる描写で描いている。決してハッピーな話だと言い難いが、ドラマチックな人生だと言えよう。

ほぼ史実に近い設定ではあるものの、あくまでも映画。とくに暗号の解読についてはわかりやすいフィクションになっているのだと思う。総当たりの解読など試すまでもなく計算コストを予想できるはずだし、効率的な「ふるい」を発見したよ、というエピソードを表現するためのものだろう。ガチで説明しても数学の素人にはわからないだろうから。

ネタバレなしとはいうものの、この映画はどんでん返しもないし、史実が先にあるわけだから調べれば誰でも知っている話だ。ネタバレもなにもないのだが、まあ映画として純粋に楽しみたいのならストーリーも知らないほうがいいのかな?
むしろ予備知識として暗号やらチューリングやら知っておいたほうが、映画もより理解が深まるような気もするけど。

天才数学者の苦悩と秘密

(ここからネタバレありの解説)

アスペルガーで同性愛者

映画は彼の学生時代から、エニグマを解読した後までの間を描いている。

彼は同性愛者だった。今でこそ少しずつ理解が進んでいるものの、当時は同性愛は犯罪だったのだ。なかなか個性が認められない生きにくい時代だったのだな。それで逮捕されたチューリングが警官の取り調べから、エニグマ解読の回想を語るという形で映画は始まる。

アラン・チューリングはマラソンでも優秀な成績を残しているらしく、映画でも走っている様子が少しだけ描写されている。けどこれじゃ何も分からないと思う。短い映画の中で一生懸命盛り込んだんだろうけど。

彼は今でいうところのアスペルガー症候群だったらしく、映画でもその様子が描かれている。仲間が昼食に誘うシーンで「俺たちは昼飯を食べに行くけど」と誘われているのに、文字通り「昼食を食べに出かる」という報告としてしか理解しないチューリング。また問題解決の能力が低いと判断した仲間に対して躊躇なく解雇を言い渡している。
とても変わり者だったらしく、上記エピソードでその変人ぶりを描いている。

映画では婚約してたけど

アラン・チューリングとジョーン・クラークは実際に結婚まで至らなかった。チューリングはプロポーズしたものの、自分が同性愛者であるため最終的には自分から身を引いたとのこと。史実から得られる情報からすると、ジョーン・クラークは「地味な女性」だったらしい笑。映画ではキーラ・ナイトレイが演じている。スーパー美人だし全然地味じゃないし。

彼女とはいわゆる親友のような関係だった。問題解決をパズルのように楽しみ、それを理解しあえるパートナーだったとのこと。たしかに結婚するには最適かもしれない。

実際にはチューリングは同性愛者だと告白していたのだが、それでも気にせず生涯よき友として過ごした。ちなみにジョーン・クラークは後に別の男性と結婚している。

ちなみに映画での、チューリングがジョーン・クラークの女子寮に夜中忍び込むシーン。チューリングが制作中のマシーンに「クリストファー」と名前を付けたと知った彼女が、ハッと何かを悟った顔をしている。男性の名前をマシーンに付けて愛着を持っている様子から、彼の恋心を悟ったシーンだ。
彼女はチューリングが同性愛者であっても気にしていない、というエピソードがさりげなく描かれている。

ジョーン・クラークは紙幣学に興味を持ち研究を続けたが、当時の女性の地位は低く、映画でも「秘書の受付はあっちだ」などと門前ばらいを受けているシーンでそれを描いている。能力のある女性が何人、蔑視で葬られてきたのだろうか。短いシーンだがそんなエピソードで当時の女性の生きにくさが表現されている。

近年になってやっと評価された

アラン・チューリングは数学者として近代のコンピューターの発展に実に大きな貢献をしている。今でこそハードウェアとソフトウェアという概念が根付いているが、コンピューターの存在しない当時から、その概念を研究していたのだから驚きだ。

当時は、例えば電卓のように決まったプログラムを実行する専用の機械しか考えられていなかった。ところがチューリングは十分に高性能な計算機を作れば、あらゆる計算をマシン上でエミューレーションできると確信していた。これは現代のコンピューターの概念そのものだ。ソフトウェアにより、電卓にもなるし絵を描く道具にもなる。まさに万能なマシンだ。

コンピューターどころか今でいうAIの研究にまで及ぶ。チューリングテストと呼ばれる思考実験があるが、精巧に作られたマシンは外部から見て、人間かマシンか判別できるのか、できなければそれを知性と呼ぶべきではないか、と考えていた。

それはともかく。
人生としては中々大変な思いをされたようだ。
そもそもエニグマを解読したという、戦争において歴史的な偉業を成し遂げているにもかかわらず、暗号を解いたことを徹底的に秘密にするため彼の偉業も当然公表されなかった。戦争の時代に生まれ、高度な機密の仕事に関わったがゆえの不幸だろう。

それどころか同性愛者として逮捕され、さらにホルモン注射を強要され、治療という名の暴力を受け続けた。そして逮捕から2年後、41歳で自らの命を絶っている。青酸カリの塗ったりんごをかじって死んだという。白雪姫になぞらえたともいわれているが、実際のところは不明だ。
映画の冒頭こぼれた青酸カリを片付けるシーンがあるのはこのためだ。悲しいエピソードだ。
彼は幸せだったのだろうか。

2009年から彼の再評価(というか謝罪)を求める機運が強まった。2013年、英国政府から正式に謝罪と彼の業績をたたえる声明を発表された。
法的にも名誉が挽回されたが、できれば本人が生きているうちにしてほしかったな。

初恋の相手

クリストファー・モルコム。劇中でも学生時代のチューリングの親友・メンターとして描かれている。チューリングは無神論者とされているが、若くして亡くなったクリストファーとの死後の世界での再開を期待していたという。学生時代、数学の面白さを教わり、チューリングが生涯数学の研究を続けたのも、クリストファーとあの世で再開したとき、また昔のように数学の話を語り合いたかったからだ、という話も残っている。なんともロマンチックな話だ。

映画では親友でもあり初恋の相手でもあったのだが、同性愛者であることを隠すため、クリストファーの死を伝えられたとき、不自然なくらいに平静を保とうとするシーンがある。肉体が男として生まれたというだけでこんなにも辛い生き方を強要された当時の様子を思うと胸が痛む。

あなたが女性だとして。愛する男性の死を伝えられた時、悲しんではいけないと「法的」に強要されたらどんなに辛いか想像してみてほしい。
もちろん男性でも同じだ。愛する異性の死には涙を流すが、同性では犯罪者になってしまう。

映画がきっかけになれば

少し前、googleのロゴがチューリングマシンになっていた。
いかにもgoogleらしい、コンピューターの開発に貢献した科学者へのリスペクトだ。
映画ではエニグマの解読だけに焦点が当てられてて、それはまあ分かりやすい業績であるものの、チューリングを語るうえでのメインではないように思う。彼の人生のドラマとしては十分興味深いが。

万能チューリングマシンという概念は、ソフトウェアを入れ替えればどんな計算もこなすという現代のコンピューターの開発に必要不可欠な研究だと思う。それどころかディープラーニングやビッグデータなど、やっとAIが現実味を帯びてきた現代。100年近く前からこの時代を予見し、世間から理解されずとも研究を続けたチューリング。ピタゴラスも戦争中に研究に没頭しすぎて捕まったと言われているが、本当に天才・偉人というのは社会が成熟してからやっと正当な評価がされるものだ。

そして今現在も日の目をみていない研究が、若き研究者によって日々続けれているのだろう。現代の常識ではバカにされてマトモに取り合ってもらえないような、オルタナティブな研究も、あと100年経ってみれば「天才だね」と評価されるのかもしれない。
日本の、世界の若い研究者たち、頑張って科学を牽引していってほしい。
この映画はそんなカンフル剤というか、きっかけになってくれればな、と思ってしまう。

映画でのエニグマの解読シーンについて解説

エニグマ攻略の経緯を簡単にまとめた。

エニグマは文字を変換して意味のわからない文字列にしてしまう機械。変換する際に「キー」を設定する。解読も同じそのキーで行う。ただし、そのキーの組み合わせは159000000000000000000通り、しかも毎日0時に更新される(世界一の暗号だ、えっへん!)

そんで総当たりでキーを探すわけだが、人力だと2000万年ぐらいかかっちゃう。
んで10万ポンドかけてマシン制作。

それでも計算速度が追いつかず、0時を迎える前にキーをゲットならず。

暗号文と平分のワンセットがあれば、そこから逆算してキーを見つけられるのに。いやいや平分わかってれば何のために解読するのさギャハハ
とりあえずバーで飲もうぜ

あれ?天気予報って毎日同じフレーズで始まるよね?これって暗号文と平分のワンセットじゃね?

うおおお研究所に戻れ!

長文を総当たりで調べなくても、冒頭の短いフレーズなら3語。これなら総当たりでも短時間でキーが得られるかも。

キーゲット!そのキーで長文の暗号解読

できたー!やったー!

本当にこんな感じだったのかな。もっと高度な数学のアルゴリズムとか開発されてたと思うけど。どうなんだろ。

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2017年2月現在、アマゾンプライム会員なら無料で観られる。
ここまで読んでから観たらもっと楽しめる、はず。

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