スマッシングパンプキンズの曲の「Tarantula」で聞こえるギターソロの音がかっこよかった。金属的で耳障りなチョーキングが突然グシャとつぶれ、でもまたのびのよい高音が続く。最初はチューブアンプにブースターとかかな、と思ったけれどふとエフェクターかもしれないと思い調べてみた。
海外のサイトでやはり俺と同じ疑問をもっている人が質問していた。英語は得意ではないが「Fender Blender」という単語が何度もでてきたのでこれだと思った。
でFender Blenderを検索するとYoutubeで音が聞けた。おーかっこいい。ファズは持っていたけれど、ブーミーなサウンドがいまいち気に入らずほとんど使ってなかった。でもこれは違う。ザラザラしててブーミーではない。ピッキングのニュアンスがあるのにグシャっとしたりする不思議な音だ。ボリュームの調整が上手なのかもしれない。欲しくて調べたら1970年代のエフェクターで入手がむずかしい。で作る事にした。
目次
Fender Blenderの作り方
回路図はファズセントラルで
レイアウトはこちらがいいかも
まず完成した自作FenderBlenderのサウンドを。
電気回路の知識がなかったので調べる事が多くて大変だった。日本でも海外でも回路図以外のところ、プラグのところやスイッチや電池など、どのエフェクターでも共通の部分は省略されていて良く分からなかった。そういう疑問を持つ人も多いのか親切にも「基盤以外の配線」と称して図入りの説明をしてくれているサイトがあった。色々勉強した結果、配線としては
- ギターからの音の入力(in)
- エフェクトのかかったギターの音の出力(out)
- 電池プラスから来るやつ(9V)
- 電池マイナスへ行くやつ(GND)
の合計4つの線が基盤から生えることになるようだ。それらをスイッチや電池、プラグと配線していく。
詳しくは当ブログエフェクターの基板以外の配線についてを参照。
あと驚いたのがユニバーサル基盤というやつだ。最初から穴のあいた基盤にパーツを取り付け、その度に線材で回路をつなげていくという難しそうな作業に挑まなければならない。
Fender Blenderを大雑把に説明すると、トランジスタでギターの音を増幅してそれをダイオードで歪ませる。それを複数組み合わせてオクターブをまぜる、という事らしい。だからトランジスタやダイオードを変えると音も変化するはず。なのでソケットという抜き差し自由の部品を基盤にハンダ付けして、パーツそのものは後で交換できるようにすることにした。
パーツを調べたら秋葉原でお買い物だ。
ラジオセンターやラジオデパートのような各パーツ屋さんの集合体みたいな所は、一般的な感覚でいうとマルイみないな感じかな。いろんなショップが一つのビルに入っていて便利。一方、秋月やヒロセ、千石などは大型路面店のセレクトショップか。特にマルツパーツでは店員さんに親切にしていただいて大変助かった。
帰りの電車では、回路図とパーツの配置図を見比べ、間違いが無いかずっとチェックしていた。なれた人が見ればサクっと理解できるのだろうが、俺には起きていたにも関わらず駅を2つも乗り過ごすほど難しかった。
サウンドの要はこの透明な「ゲルマニウムダイオード」らしい。写真のものは1N34Aというもの。ほかにも1N60Pとか1K188FM-1とかいうのを買っておいた。
ユニバーサル基盤にあらかじめ配線を書き込んでおいた。ミスる確率を減らしたい。抵抗もテスターで測った上カラーコードで確認し数値をマスキングテープに書いてまとめておいた。素人でも一目で抵抗の数値が分かる。電解コンデンサーは極性が無いものをチョイス。これもミスを減らしたかったからだ。
パーツを基盤に取り付け、ケースに穴を空ける準備。最初に購入したハンダが220度で融けるやつで使いにくかった。あらためて調べたらスズ60パーセントのものが良いと知ったので購入し直した。ハンダごても温度調節できるやつが良いと感じた。
万能作業台(アマゾンへのリンク)の万力でケースをしっかり挟み込んで穴開け開始。この万能作業台、購入しようか迷ったが本当に買って良かった。「ちょっと押さえてて」みたいなシーンってあるけれど、これなら大体の事は一人でできる。大小さまざまなものを挟み込んで固定できるのがこんなに便利だとは思わなかった。なにより安全だ。価格も安いもので十分だとおもう。かっこいいBOSCH製には憧れるが(高い)
マキタの電動ドリルを持っていたので、ステップドリルというたけのこのような刃を買って穴を空けた。ピンバイスによる下穴も不要で手間いらずのすばらしい工具だ。ちなみに穴をあけるときには熱で刃が傷むのを防ぐ為に注油するのだが、専用のものが無かったのでサラダ油で代用した。大丈夫かな。
完成。音も出た。でも各ボリュームを調整してもイマイチどういう変化なのか理解しにくい。音量とトーンは分かったが、他の二つがわからない。何か配線間違えているのだろうか。
それからフットスイッチだが、フジソクのムスタングというものを使っている。他のものよりコンパクトなのと、なによりスイッチの固さが他にくらべて柔らかい。一般のフットスイッチって固くて指が痛くなるんで、これは気に入った。
音について。
パーツ選びについて
トランジスタは入り口の2つが2N5089、後半の3つは2N5088。
ダイオードは1N34A(ゲルマニウムダイオード)。弾いてみるとファズの音量が小さい。ファズのかかりもマイルド。トランジスタの増幅が弱いのかな、と思い別に買っておいた2N3391Aにチェンジ。すると音が出なくなった。おなじNPNタイプ何だから音がでないことはないだろうに。
トランジスタを一度もどし、今度はダイオードを1N60Pにしてみた。
すると!音が変わった。ギャンギャンジャリジャリ言うようになった。面白い。1K188FM-1も試してみたがこちらも同じような音で気に入った。だがオリジナルの音とはまたちょっと違うようだ。ここでひとまず部品の整理を。
トランジスタは
- 2N3391A
- 2N3391
- 2N5088
- 2N5089
- BC547
ダイオードは
- 1N60
- 1K188FM-1
- 1N34A
- OA90
と様々な説があるようだ。オリジナルの型番は古すぎて手に入らないから、いろんな代替品がたくさんの説を生んでいるのかもしれない。なんにしても気に入る音が出ればよいのだから、オリジナルにこだわらず色んなパーツを試してみよう。
…色々ためした結果、トランジスタはBC547Cでダイオードは1K188FM-1に落ち着いた。トランジスタを交換したら音量がアップし歪みもジャリジャリになった。1N34Aはちゃんとしたファズというか使えそうな感じの印象。1N87というダイオードも試してみたがかなり粒の細かいディストーションみたいな音になってしまった。1K188FM-1はそのなかで最も荒々しいサウンドがでた。ひとまずパーツはこの組み合わせにしてこれからツマミやギターのボリュームでもいじって遊んでみるとするか。
フェンダーオリジナルのFender Blender
自作との比較用にオリジナルを買ってしまった。こちらはヴィンテージではなく2000年代に復刻されたモデルだ。ACアダプターの端子がついていたりして少しだけ便利になっているようだ。音については、youtubeで聞くアッパーオクターバーの音だ。自作したほうのが歪みが深く、Fender Blenderの個性をより強くしたような印象に仕上がっている。このへんの違いはトランジスタの増幅率とダイオードによる矩形の差異から来るものだと思う。自作する人は是非ともソケット化して色々試してみたらいいと思う。
エフェクターを学ぶ本について
この本を買って学んだ事は多い。
実は大塚明氏が90年代に出していたハンドメイドプロジェクト(絶版)を学生の頃買っていて、一度エフェクターを作った事があった。だがその頃は回路の意味がわからず、ただ本の通りに作っていただけだった。大人になりネットで情報を得られるようになった現在、改めてエフェクターを学び直した。するとなんと面白い事か。アッパーオクターブの出る仕組みが知りたかったのだが、そういった技術面だけではなく、今では誰が開発したのか検討もつかないような回路について、当時のメーカーの担当者の設計思想について思いを馳せていたり、読み物として純粋に面白い。